社会物語学のために

  • 新しい年、新しい小説

    昨年の十二月のなかばにひさしぶりに小説を書いてみたいと思った。その日から毎朝こつこつ書いているうちに原稿用にして百五十枚ほどの分量になり、そこで無事に物語を着地させることができた。気づけば、三ヶ日。明日からは日常業務に戻りながらの手直しがはじまる。こちらのほうが集中するのがむずかく、そのぶん消耗もしやすい。

    三十五歳という人生の曲がり角にきた人が希死念慮を抱えていたところ、七月八日に起きた安倍晋三銃撃事件を機に少しずつ立ちなおってゆくという話。調べてみたら、芥川龍之介がぼんやりとした不安を抱えて自死したのも三十五歳の時だった。ちなみに太宰治が亡くなったのは三十八歳のときで、三島由紀夫は四十五歳のとき。その若さを私はひとごとのようにいたましく思う。

    今年になってからは、宇多喜代子さんの監修する「俳句の日めくりカレンダー」をめくるのを日課にするようになった。当たり前のことだけれど、紙の一葉一葉の薄いこと。日ごろから液晶画面のカレンダーに馴染んでいる目にはもはや異様なものに映る。手に触れて透か見ているうちに、この世のものとは思えないような気がしてくる。掲載されている句にしてもそうなのだった。異国の感性で異国の折々が綴られている。それを他人事のように消耗しながら日々の時間をすり減らしてゆく。いまの私にはただそのことが心地いい。新年がはじまり、うれしい。