Twitterの終わりの始まり?

いまや墓地と化したFacebookとの比較のなかで
@mimei_maudet
Journal : 2022/04/15

[Chris] So, you know, a few hours ago you made an offer to buy Twitter. Why?
[Elon] How you’d know?
[Chris] I don’t know… Little bird tweeted in my ear or something […].
[Elon] I think it’s very important for there to be an inclusive arena for free speech. Twitter has become kind of the de facto town square.

[Youtube] LIVE: Elon Musk Gives TED Talk in Vancouver

 Reuteursによれば4月13日にイーロン・マスクがTwitterの買収を提案ということです。その経緯については日経新聞にも詳しいし、noteにはTEDでのマスクへのインタビューのまとまっています。これらの記事を目にして、Twitterのこれまでとこれから、Facebookとの違いなどが気にかかったので、雑感を書き残しておこうと思います。そもそも、Facebookが廃れてゆくなかでTwitterにはいまだに多くの人が残っている、という実感が私にはありました。We love socialに掲載されている以下のデータからも、すくなくとも日本においてはそれが確かな傾向としてあることがわかります。

 Facebookにおいては若者が減少しているのに対して60代の利用者が増加している。ようするに少子高齢化がおきているわけですね。Facebookは利用者の死の扱い方のことを早くから考えてきました。「私が死んだ場合、Facebookアカウントはどうなりますか」というヘルプ記事も用意されています。私はFacebookのアカウントと生者と死者の割合を知りませんが(どなたか教えてください)、意外と近い将来に死者が生者を数を上回るのかもしれません。Facebookはますます大きな墓地としての役割を果たすことになるのではないかと思われます。その一方で、Twitterの利用者は圧倒的に若い。モバイル社会研究所のデータからは興味深いことに10代から30代においては女性の利用率のほうが高いということも伺えます。
 ところが、ですよ。マスクがTwitterを買うというからどれだけお値ごろなのだろうと思って、はじめてTwitterの株価を見てみたのです。そして、Facebookと比較した私のTradingviewの週足データ(2022年4月15日付)がこちらです。

 2013年にはなんと、TwitterのほうがFacebookよりも高いということもあったのです。しかし現在の価格はFacebookが210$であるのに対して、Twitterが45$です(マスクは54$20での全株の買取を提案している)。ここには5倍ほどの差があるのですが、コロナショック後のNASDAQバブルの絶頂でもあった2021年9月の時点では、Facebookが約380$だったのに対してTwitterは約65$。6倍ほどの差があり、その後のFacebookの暴落によって差が縮まりつつある、という現状なわけですね。マスクはここにTwitterの伸びしろを見ているのでしょう。
 このように振り返ってみると、たしかにTwitterの株価は長い低迷状態のなかにあったと言えます。2021年11月29日にTwitterの運営人の首がすげかえられたことの一因もここにあるのでしょう。元CEOのジャック・ドーシーの友人のひとりがイーロン・マスクです。ようするに今回の一件、ジャックがやめさせられた結果、マスクという強力なお友達が出てきて、物言いがついた、というそれなりに人間味のある投資家たちの物語とも読めるわけですね。Metaのマーク・ザッカーバーグもそうですが、この二人はブロックチェーンにウェブの未来を見ています。マスクの今回の買収が失敗に終わった場合は新しいプラッフォームが立ちあがるのではないか、というような期待、というか懸念? も感じられます。
 さて、株価と利用者数の関係はどのように考えたらいいのでしょうか。その一因として素人の私でも思いつくのは、設計思想とビジネス・モデルの根本的な違いです。特に利用者のアイデンティティというものへの考え方が大きく違います。Facebookは個人情報の分析や販売によって利益を得ています。そのため(行政レベルの身分証によって保証されているような)個人のアイデンティティとアカウントが一対一で結びついてもらわないと困るのですね。メタバースの世界でも同じことが言えます。1アイデンティティ=1アカウント=1アバターの等式が成りたつのが収益の観点からは望ましい。その一方で、Twitterには、そのようなアカウントの縛りがない。まさにその身軽さゆえに日本人から贔屓にされてきたとも考えられるのですが、まさにその代償こそが株価の低迷だったのではないか、と思わずにはいられないのです。Facebookと違って、うまみの少ないビジネス・モデルだったわけですね。
 しかし、それが今変わろうとしている。収益の増加をはかるような動きがジャック・ドーシー以降の新しい運営からもイーロン・マスクの側からも出てきている(たとえば有料会員にもれなく認証バッジをつけるというマスクの提案はアイデンティティ・ポリティクスの一つ)。このように考えてみると、きっともっと現実は複雑であったにせよ、ジャック・ドーシーがいたころのTwitterはそれなりに牧歌的な時代を謳歌していたのではないか、という気がしてきます。今回の件が、一つの時代の終わりを告げているように思えてなりません。